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では“解答篇”と参りましょうか。(って、これは『安楽椅子探偵』か。)
春先のまずは外せなかろう一大イベント、お花見の宴からして。随分とギリギリまで様子見していた、こちらの面々のジリジリとした待機も知らず、結局は欠席で通した仕事漬けの警部補殿ではあったれど。七郎次が仕方がないと容認していること、外野がいきり立っても彼女を困らせたり悲しませたりするだけだと、そこのところは切り替えも素早いお歴々。前世からして、どっかでシチさんに甘えてるというか、説得したり謝ったりを省略している節の強い、ずぼらをするお人でしたものねと、せめてもの辛辣な毒づきをした平八へ、苦笑で誤魔化しかけた白百合さんだったが、
「…あれ? ヘイさん、これ。」
彼らで集ってのお花見の最終設定の場、八百萬屋の奥向きの居間にて、各々のスケジュール帳を突き合わせていた3人娘だったのだが。愛らしいキャラクターがうっすらとプリントされた紙面の片隅、ぺとりと貼られてあったのが。五郎兵衛とのツーショットで作ったらしいプリクラシールではないかいなと、七郎次が気がついた。
「えへへぇ、実はこないだゲーセンで撮りましたvv」
アーケード版にも引けをとらない、数々の効果や加工が可能なPCソフトもありはするけれど。ましてや…画像処理は玄人並みです、どうかお任せとの腕前持つ平八でもあるけれど。市井のプリクラで、出先で撮りましたという、殿方には相当に勇気ある行為だってところにも意味のあることだから。
「いいなぁ、ゴロさんてノリがいいから。」
ヘイさんが頼むことなら特に、何だって訊いてくれるんじゃない?と。男臭い風貌をわざとに満面の笑みにて温めて、Vサインまでご披露している壮年殿と、身を寄せ合ってのにこやかに微笑っておいでのひなげしさんがまた、こうまでの笑顔はたまにしか見せないぞという、特級レベルの甘い笑顔で写っておいでで。
「勘兵衛殿は?
確か携帯の待ち受けの…次くらいに入れておいでじゃなかったか。」
「…よく覚えていたわよね。」
仕事中かはたまた、待ち合わせ場所に先に来ていたのを望遠ででも撮ったそれか。視線が明後日向いてる姿のを、それでも写りはすこぶるいいのでと、
「これって、去年の今頃に撮ったんだよね。」
「え〜〜〜っ! じゃあ1年ずっと同じのですか?」
だってさ、儂の顔なぞ撮っても面白いものでもなかろうなんて言って、勘兵衛様、滅多に写真なんて撮らせてくれないんですよと。真っ白い頬を、やんちゃな子供のように ぷうと膨らませた七郎次であり。
「もしやして、写真に魂を吸われるとか思ってるんじゃあ…。」
「どこの大戦中の勘兵衛様ですか、そりゃ。」
そういや近しいところにも居ましたなぁ、I様。(苦笑) それでなくとも、証拠物件としての写真を採用している側のお人が、それはないと思いますがと。一応は律義にも筋の通った見解で応じてから、
「………。」
「あ、そうだ。久蔵は?」
まだまだ少し肌寒い頃合い、居間のコタツに足を突っ込んでいた三人娘のもう一人。金の綿毛も愛らしく、ビスクドールのように凛然とした風貌をしていつつ、家にはないのかこちら様のやぐらゴタツが非常にお気に入りらしい久蔵が。肩までもという深々と、布団に両腕もぐり込ませているのと目が合ったので。
「???」
「だから。兵庫せんせえって写真撮らせてくれるの?」
あのきりりと冴えた風貌に似合わず、思い切り“子煩悩(?)”なお人だから。久蔵の写真ばかり撮ってるんじゃなかろかと思ったのは、実は平八も同じくで。そうだった、そちらさんもなかなかに焦れったい殿御だったんだと思い出しつつ、どうなのよと視線で問いかけたらば。
「〜〜〜えっと。///////」
今日は週末、バレエのレッスンもない曜日だったのでと、花見の打ち合わせに学校帰りのそのまま集まっていた彼女らだったのだが。体操着を持って帰るつもりだったか、学生カバンに添わせて提げていたキルティングの袋を手にした久蔵。その中へと手を入れて、ごそごそした後に取り出したのが、
「…え?」
「プリクラ手帳、ですか?」
それも、どこの敏腕ビジネスマンですかと思わすほどに、綴じられた台紙がまた、ずんと分厚い代物であり。それをおもむろにぱらぱらとめくった久蔵の手元には、そのままパラパラまんがになるようなノリで、ほぼ同じ立ち位置にいる兵庫殿と久蔵の二人が写った、少し大きめのプリクラが…めくってもめくってもという大量に現れる始末。
「これって…。」
「まさか週に何度というノリで撮ってるんじゃあ。」
それほどじゃあないかと思わせるほどに、よくよく見れば1枚1枚服装が微妙に違いもし。同じ日に撮ったのを大量に貼ってないところが却って凄まじいと、お友達二人が感じたところへ、
「…出先にあれば、の話だが。」
否定はしないよんと、しかも“ふふvv”という…平仮名ながらも微笑みつきの応対を、他でもない久蔵が見せたので。
「兵庫せんせえ、やることはやってんだな。」
「そだねぇ。」
何かちょっと斜めな気も相変わらずにするものの、今のところは特に案じることはない二人なのかも知れんと。ひなげしさんと白百合さんが、肩を寄せ合ってのこそこそと囁き合ってから。
「いいなあ、二人とも。」
たかが写真、されど写真。近年、女性同伴でないと撮れませんという但し書きのあるコーナーが増えつつあるとかで、男性にはちと敷居が高いだろう、そんなプリクラじゃないとヤダとまでの贅沢は言わない。それでなくとも彼女らほど頻繁に逢うことさえ叶わない、愛しいけれどお忙しいお人。せめて写真でくらい、新しい姿のを手近に置いての眺めていたいと思っても、罰は当たらないだろうにねと。はぁあと切なげな吐息をついた白百合さんだったので。
◇◇
「結構、緊迫したお顔が撮れましたよ。」
「………それも、ツーショット。」
「ええvv」
望遠レンズの縁を光らせたのは故意にの所作で。ここまで上手に息をひそめてたのにどうしてと、怪訝そうなお顔をした相棒へ、
『気づかせることで、一気に緊迫の度合いが増して、
こっちに注意をしつつ、しかもきりりと引き締まったお顔が撮れるでしょう?』
視線もいただきの、イケメン度もアップさせる作戦ですよと。その周到な作戦を自信満々に言い放ったところは、向こう様へ常々冠されている“おタヌキ様”との称号を、こちら様へも授けたくなったほどの余裕でもあり。
「ほら。現に、ここまでのは微妙に緩んでるお顔が多いでしょう?」
「???」
「見分けがつきませんか? う〜んと、どう言えばいいのかな。
ここからのお顔の勘兵衛殿となら、立ち会いたいと思いませんか?」
「………うむ。」
成程そういうことかと、そんな喩えで納得するあたり。彼女からの勘兵衛殿への把握って、前世とあんまり変わってないらしいなとの、再確認をしたような感もありつつの。
「さてと。これ以上のシャッターチャンス狙いは、
それこそ覗きと紙一重になっちゃいますからね。」
「帰るのか?」
「ええ。」
見本市会館から随分と遠い立体駐車場の日陰の一角。しかもしかも、七郎次とともにいる勘兵衛としては、狙撃は大仰、単なるパパラッチのストーカー行為と見なしたとしても、標的には違いない彼女の傍らから離れる訳にもいくまいから、よってのこと、確認のためにと此処へ駆けつけることも不可能ではあろうけれど。
“私用に部下を使うお人じゃあないでしょうが。
それでも…あの佐伯さんを引っ張り出さぬとも限りませんし。”
それじゃあなくとも、今のこの時代にも海千山千の怪物相手に奮戦して来たおタヌキ様だけに、どんな奥の手を発揮するか判ったものじゃあない。脚立や各種望遠レンズに、彼女のお宝、一眼レフのカメラの類いを、キャリーケースに手際よく収めてしまい、それらは…傍らに停めてあったボックスカーの後部座席へと放り込む。ここへの潜入もこの車にて、しかもしかもめいっぱい変装した五郎兵衛に頼んであれこれ運び込んだ彼女らだったし、持ち帰りのほうも、後刻に彼に来てもらう手筈になっている。今はとりあえず、撮影したデータを収納したSDカードを抜いての、何食わぬお顔で持ち帰ることで作戦終了…と構えておれば、
―― じりりりり………っ、と
駐車場の全フロアにけたたましい警報のベルが鳴り響いたのへ、ほら来たと肩をすくめつつ。誰かが通りすがっても、素早く身を伏せたり物陰へ隠れたりしやすかったジャージの上下を素早く脱ぎ捨てると、それもまた車へと放り込んでから、お互いのいで立ちを素早くチェックし、後は知らないと軽やかな足取りで、下階目指してステップを降りてゆく二人連れ。
「…あ、そこの人。上の階で、怪しい人を見かけませんでしたか?」
どこからの通報があってのことか、この警報に背中を押されて駆け上がって来たらしい、警備員のお兄さんに呼び止められたものの。
「さあ…私たちは何も。」
インナーは気の早いサマーセーターか、それとのアンサンブルのカーディガンの若草色が何とも優しい、フレアスカート姿の少女が、甘い印象のする童顔ごと小首を傾げたのへと、
「〜〜〜。(否、否)」
自分も知らぬと言いたいか、日本語は苦手ならしき金髪の美少女が、ふるふるとかぶりを振って見せる。そちらさんはスレンダーなサブリナパンツがすっきりとお似合いの、ビスクドールも顔負けという精巧な面差しが美しい女の子で。細かいタックが背中や前立ての左右に居並んでいることで、ウエストラインをフェミニンなシルエットに絞ったデザインの、膝まであろうかという綿サテンのブラウスを、上着の代わりに羽織っておいで。どちらもそれはお洒落な少女たちであり、それではごきげんようと愛らしく会釈して通り過ぎるのを、強引に停めるまでもないと警備員が思ってしまってもしょうがなく。
「もっと上の階かな。」
管理室へいきなり不審者を見たとの通報電話が入ったと同時、ビル内に鳴り響いた警報とあっての飛び出して来た彼には悪いが。何があったかは有耶無耶なままな一騒ぎとなりにけりであり。そして……、
「…やはりお前らか。」
「どひゃあ…っ。」
最下階の出入り口は、車だったらその鼻先へ指し渡されるバーでの一時停止がかかるところだが、手ぶらの未成年女子では制止なんぞ掛けられないはずが、
「この距離を良くもまあ、この素早さで詰めましたね。」
先にも挙げたが、周辺へと随分開放的な作りの見本市会館は、見晴らしがいいことと引き換えに、すぐのお隣りさんへも……駐車場だの遊歩道だの緑地庭園だのが挟まってのこと、結構な距離があったはず。ほんのついさっき、望遠レンズ越しに向こうの会館の中にいたのを見たはずの、警部補殿と彼女らのお友達の白百合さんが、もう此処へまで辿り着いてるなんてと、そこは素直に驚いた平八だったのへ。
「なに、
会館前で五郎兵衛がスクータに乗って通りかかったのを、
ちょっと貸してくれと呼び止めたまで。」
えっへんと応じた、今日はカジュアルなスーツ姿の島田警部補殿の言い分が終わらぬうちにも。少しほど後方から、見覚えのある御仁が、そちらさんは自前の足で駆けてくるのが見えたので、
「ホントに穏便に借りたのですか?」
「いやヘイさん、そこはアタシも見てたから。」
腹黒さではピカイチと、すっかり認定されてる壮年相手、ついつい…何でもかんでもへ疑ってかかっても、そこはしょうがないかもしれないが。ホントはいけないスクータに二人乗りにて、此処まで一緒にやって来た七郎次が言葉を添えて。
『きっと、ゴロさんとしては
勘兵衛様にも悪いことしてるかな〜と少しほど思われたのでしょうね。』
だから、言われはないと断っても良かったけど出来なかったのかも。いやさ、そもそもそんな判りやすいところを通りかかったのすら、不公平のないようにと勘兵衛へも加勢をした彼だったのかも知れずだよと。七郎次が宥めるように言ったのへ、
『何でですよ。』
むうとむくれてた勢いがつい余ってのこと、久蔵がシチに当たるなと庇いに来たほどの不機嫌さで。乙女の構えたささやかな大作戦、途中で気づいたんなら尚のこと、最後までいっそ騙されたままでいてくれりゃあ良かったのにぃ…っと。ある意味、立派に大人げなかった勘兵衛を、あんのおタヌキさんはとますますのこと敵視しちゃったような節のある、ひなげしさんだったりし。
「だって、
監視カメラをハッキングしてとかいう安易な手口では、
絶対に撮りたくなかったんですもの。」
そう。これは、ちょっとしたヲトメ心が発動させちゃった、
他には気づく人はいませんように系統の大作戦。
お花見さえ侭ならないほどお忙しい恋人さんに、それでも甘えないシチさんなのを見かねてのこと。お友達が構えてくれた、せめて携帯への写メの補充、新しいショットを増やさせてあげたいとの一大計画で。それが何処でになってもいいから、逢う機会が出来たら教えてと告げてたところ、例の桜の絵画展示会へのお誘いへ応じてくれたので。ならばと立ち上げられたのが、
望遠使って、途轍もなく遠くから
ベストショットを撮ろう大作戦…だったワケであり。
出来れば凛々しいお顔のを、それとそれと、もひとつ出来れば1つのフレーム内に二人で収まる“ツーショット”でとのささやかなご所望に、きっちりお応えしちゃいましょうと。スコープ構えたスナイパーよろしく、ツーショットを一番撮りやすい、例の空中回廊へまで出て来るのを、向かいの立体駐車場にてじりじりと待ち構えてたこちらのお二人。
「こんなややこしいことをせずとも…。」
「言えば写真くらい撮らせたと、今だったら何とでも言えますわよねぇ?」
でもでもそういえば、個人的な集まりの中、カメラ向けるとさりげなくそっぽ向いてた勘兵衛殿だったのを思い出し。まさかとこれまで撮った画像の山から検索したところ、ちゃんとカメラの方を向いており、お顔でも姿でもどこも欠けずに収まっている写真の少なかったこと。そういう裏付けもあってのこと、七郎次へ同情し、こんな作戦を敢行した彼女らだったそうであり。ちなみに、
「久蔵殿もなかなか、奇抜なアングルで撮るのがお上手で。」
会館へと入るところや、待ち合わせの街角にての二人をこそりと撮った写真には。周辺へのぼかしが上手にかかった印象的なのや、フレームが斜めになっているところに味がある出来のものが数枚あって。あ、これは欲しいと早速にも依頼主様からのチェックが入ったくらい。無論のこと、日本語が苦手そうな無口な外人さんの振りという役どころもしっかとこなしてくださった芸達者でもあって……って、いやいや それはともかくとして。
「あくまでも、
防犯カメラに便乗とかいうズルはしないでと構えた作戦です。」
シチさんからの文句を言われるなら謝りもしますが、勘兵衛殿からの申し立てはしっかと言い返す所存ですからねと。山椒は小粒でも…を地でゆく、相変わらずに強気なひなげしさんなのへ、
「判った判った。やきもきさせたのは すまなんだ。」
何も頭から叱り飛ばしに来た訳で無しと、こちらさんもまた苦笑が絶えないらしき大人の警部補殿が、元気に噛みつくお嬢さんなのへ どうどうどうといなしていれば、
「ヘイさん、そのくらいにしておきなさい。」
どこのご隠居様ですかという言いようで、やっと追いついた五郎兵衛殿が割って入って。仲良しな三人娘が発動させた、意外な大作戦とやら。成功か失敗かは評価が分かれるところのまんま、ここに終幕となったのでありました。
おまけ 
「それにしても。」
防犯カメラへの便乗が、出来なかないがそれだと芸がないからと言わんばかり。あくまでも少女の純情にのっとっての正々堂々な方法として、あんな芝居がかった手を取ろうとはなと。すったもんだに決着がつき、あらためての二人きりとなってから。勘兵衛がしみじみと口にしたのは、蒸し返すつもりからでは勿論ないようで。
「そんな高度な策を容易く取れる身だけれどと前置いて、
そんな策はズルいの芸がないのとあっさり見切れるところこそ、
普通一般には恐ろしい手練れに他ならぬのだがの。」
ほんにお主殿は、ごくごく普通の女子高生とは毛色が違うことよのと。くつくつと微笑ってしまわれたものの、
「そのように仰有られては……。///////」
そもそもはといや、自分がこぼしたリクエストのせいというところまでもが、しかも選りにも選って勘兵衛本人へ明らかになってしまったので。恥ずかしさは依然として引かぬまま、帰りますと いつ言い出したらいいものかと肩をすぼめていた七郎次が、お友達を庇うよについつい反駁しかかったものの、
「無論、揶揄しておる訳ではないさ。」
会館の裏手、庭園と微妙に重なったところに設けられた休憩用のベンチに腰掛け、
「で? どの写真を待ち受けへ設定するのだ?」
七郎次が平八から貰った格好のSDカード、その中身をデジタルカメラの液晶へと再生しつつ。どれもこれも、ただのおっさんなのだがなぁと、ある意味立派な隠し撮りされた自分の姿に苦笑が絶えないらしい勘兵衛へ、
「それなんですが。//////」
恥ずかしさも此処に極まれりということか、蚊の鳴くようなお声になった七郎次が、それでも頑張って言ったのは、
「やっぱりそこまではしないでおこうと。//////」
「ほほぉ。」
あとあと確かめたら、ヘイさんも久蔵殿も携帯への待ち受け…というかストックには、ゴロさんも兵庫せんせえも一人で写ってるのしか入れてないんですよね。アタシと違って二人で写ってるのもそうでないのも、たっくさんの画像が手元にあるのに 何でかなぁって思ったんですが、
「携帯の待ち受けって、
普段あんまり警戒しないで開けちゃう場所でもありますから、
他の人の目に留まりやすいですし…。//////」
それとあのその…と、言葉を途切らせ。微妙にもじもじしてから えいっと頑張って言い足したのが。
「こんな間近に、しかもお気に入りのが入っていたら。
アタシだったら、
いつもいつも見つめてばかりになっちゃうと思うんですよね。//////」
「………ほほお。」
丁度、勘兵衛の手元に呼び出されていたのが、何かしらの気配へハッとしたその刹那の、何とも凛々しく勇ましかった一枚で。それを見て、こちらはこちらで あっというお顔になった七郎次、さっと伸ばした手が目にも止まらぬ早さでデジカメを奪い去っており。
「…もしかしてそれを待ち受けに使うのか?」
「〜〜〜違いますって。///////」
人の話聞いてましたかと真っ赤になった七郎次だったが、そんな彼女のお顔の前へ、ほれと差し出されたのは……、
「え? これって…。」
勘兵衛の使っている携帯であるらしく。二ツ折りのモバイルの、蓋をぱかりと開けたなら。
「………………な。/////////」
「昨日、征樹に設定してもらってな。」
柔らかな陽の目映い、どこかの喫茶店だろうか雰囲気のある格子窓のすぐ傍らで。つややかな金の髪を引っつめ気味に結い上げて、かすかに含羞みながらも緋色の口許を形良くほころばせ、はんなりと微笑う愛らしい七郎次の、ピントもくっきりとした逸品写真が呼び出されているではないか。
「い、いいい一体どうしたんですよ、この写真っ。」
「久蔵に貰った。」
さすがはお主をこよなく大事にしているだけあって、それは愛らしいスナップをたんと持っておったその上、全部は見せぬ 吝(やぶさ)かぶりでの、と。何とも感慨深げに唸りつつ語る御主だったのへ。
「何をまたしみじみ感心しておりますか。///////」
と。ほんの先程までの焦りようはどこへやら、うあ いつの間に撮られてたんだろと覚えがないらしい七郎次がまじまじ眺めようとしたところ、あっさりと引っ込められた携帯であり。え?と呆気にとられた白百合さんへは、
「人にはあまり見せとうないという心持ちは、さすがに判るからの。」
「そんなぁ…。////////」
被写体本人相手に何言ってますか。といいますか、それをそのまま使うのは辞めて下さいよぉと。今度は別な恥ずかしさから、真っ赤になってしまった七郎次お嬢様。お返しにこっちもツーショット写真を使うことにしては?なんて、斜めに外したことを思ってしまったのが誰なのかは、ご想像にお任せ致しまし。ほこほこといいお日和となった春めきの中、大人っぽい装いも何のそのと、小さな拳を振り上げた愛らしい恋人さんが、いつもの屈託のなさを復活させたのへこそ ほくほくとしつつ。桜こそ見逃しても幸いの余りある、この世の春とやらを満喫しておいでの、おタヌキ勘兵衛様だったらしいです。(マル)
〜どさくさ・どっとはらい〜 11.04.23.〜04.24.
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*学園祭に引き続き、デートまで狙われてますが、
はい、つまりはそういうことだったのでしたvv
人騒がせなお嬢さんたちです、相変わらずに。(笑)
誰が一番のおタヌキ様だったやら。
とりあえず、人騒がせな悪戯で済んで良かったね。(それだけですかい)
*それぞれがそれぞれなりの
進展やら停滞やらしているバカップルたちですが、
一番不慣れなカップリングなせいか、
ヒョゴさんとキュウゾウは
どうやって進めればいいのかが一向に判りませんで。
とってもかわゆいエピソードなら、
某YUN様のところのこんな珠玉作とかいかがでしょうかvv
めるふぉvv


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